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【書評】日本人漂流記(上)川合彦充

  江戸時代に海で遭難し漂流の憂き目に遭い、主に海外に流れ着いた日本人の記録を集めたもの。これを読むと日本人漂流しスギィ! ってくらいに漂流していて驚かされる。それでも陸路でものを運ぶよりは海運した方がはるかに効率が良いのだろう。

 リスクを負いながらも効率的な交通を選ぶという点では現代の自動車と交通事故の関係にも通じるものがある。

 それにしても漂流者は太平洋やオホーツク海や日本海などの大海原を当てもなく漂い、その日数は数ヶ月や、長いと一年以上、最長記録は実に484日で、これは世界最長記録だという。

  周りを見渡しても果てしない波また波の波続き、食料も水も無く仲間は次々に死んでいく。生き地獄のような環境の中で長きにわたり漂流するというのは想像を絶する艱難辛苦であろうが、それでも生き延びたというのはまさに不屈の精神がなければ為されないことだ。まったく驚くべき強靱な精神力である。

 漂流者は運が良ければ外国船に助けてもらえるが、アメリカ船やロシア船、ポルトガル、清国船の乗員はことのほか親切で、漂流者の帰国のために奔走してくれる者が多い。最もアメリカやロシアの場合は日本との通商交渉、つまり鎖国状態だった日本を開国させるためのカードとして利用するという目論見があったのだが、それとは関係無しに私事として親身になってくれる者も多かった。

 それに対して幕府は漂流者を送ってくれた外国人には米俵をあげてとっとと帰してしまい、漂流者は犯罪者扱いで何ヶ月にも及び長崎奉行が取り調べ。それがあまりにひどいものだから自殺してしまう者もいた。しまいには漂流者を乗せた外国船に向かって砲撃し、帰国を断念せざるを得ないケースもあった。

まあそれが良いか悪いかなんて今の価値観では断罪できないが、少々やり過ぎなのではないかとも思った。

 ともあれ鎖国の時代にあってはからずとも海外に流された漂流者が意外にもダイナミックに世界を渡り歩いているので驚いた。もうほとんど世界一周と言ってもいいくらいの移動をしてロシア皇帝と謁見している者もいるのである。そうして海外で何年も暮らしながら帰国のチャンスをうかがい、無事帰国できる者もいれば断念する者もおり、自らの意志で外国に残る者もいる。

 海外での珍しい文物に囲まれ進んだ生活をしていても、それでも望郷の念をぬぐい去れない漂流者の切なる想いには胸を打たれるものがあった。

 

日本人漂流記(上) ノンフィクション (現代教養文庫ライブラリー)

日本人漂流記(上) ノンフィクション (現代教養文庫ライブラリー)