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闇へのご案内~すすきの黒服、客引き体験録2

 

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 第1話↑

 

 そうして異動となったのが、これはもう会社ごとなくなった店なので実名を書いてしまうが、南五条西五丁目のスターヒルズビルにあった「Dior(ディオール)」というキャバクラで、会社名はクオーレと言った。もちろん高級ブランドとは関係ない。キャバの形態としてはソフト系に分類される。ソフト系はディープキスとお○ぱいまでのお触りが許可される店で、ハード系はそれに加えて手マ○が出来る。性器への指入れだ。ハード系はさらにダウンタイム制とオールダウンに分かれ、ダウンタイム制は40分なら40分のセット時間内に一度10分ほどのダウンタイムがありその間だけお触りが可能、オールダウンはセット時間内なら常にお触りが許された。

  Diorに出向いたおれを迎えたのは二人の「マネージャー」であった。一人は目のクリッとした、背の低い、可愛い系のイケメンであった。マルボロメンソールを吸っていたのでマルメンと呼ぶことにする。もう一人も背が低く、口ひげとあごひげを生やした風来坊のような奴だった。ランドクルーザーに乗っていたのでランクルマンと呼ぶことにする。二人はプ○キュアではなく同級生だそうで、おれの一つ年下だった。
 それともう二人の黒服がいた。一人は髪を短く刈り上げ如何にも気合いの入った感じのやつで、後で知ったところによると元ヤクザだった奴だ。三島由紀夫みたいな長い顔だったので三島と呼ぶことにしよう。鋭い眼光はやはり元ヤクザの面影を残し、マネージャー衆より怖かった。もう一人は縦にも横にも少し大きく、ハムスターのような顔で、なんとなく芸人っぽい奴でこれは取っつきやすかった。後に「ごま団子」というあだ名がついたのでごま団子と呼ぶことにする。三島とごま団子がまた同級生で一つ年下だった。
「Dior」はソフト系としては珍しい、というかすすきの唯一のワンボックスシートの店であった。普通ソフト系はオープン席なのが世の常であったが、ここはワンボックスで客とキャストが一対一になり、ダウンタイムになると薄いカーテンがかけられるようになっていた。というのもここは「ニュークラみたいな高級感のある落ち着いたキャバ」というのを目指していたのだ。
 白いワイシャツに黒のベストと蝶ネクタイという如何にも黒服といった制服を着せられ、開店準備をする。床掃除をしたりシートを拭いてファブリーズをかけたり、酒の補充をしたりした。ワンボックスシートのテーブルには焼酎とウイスキー、ブランデーのボトルがあり、これが飲み放題メニューであったが客のほとんどは焼酎を飲んだ。中身の減っているボトルにペットボトルから焼酎を補充していく。ボトルは鏡月を置いていたが中に入れていたのはそれより安い大五郎であった。覚えていないがウイスキーなどもボトルより安いのを入れていたのだろう。ミネラルウォーターのペットボトルに水道水を補充するのも忘れずにやらなければいけない。
 やはりキャバクラはパブとは趣が違っていた。黒服も厳しいし、女の派手さ、頭のイカれっぷりにも磨きがかかり、倖田來未や安室奈美恵がマドンナやレディガガになったような感じだった。ソシャゲのカードを進化させたような、と言ってもいい。
 おれが最初にやらされたのはトレンチの持ち方に慣れることであった。飲食店従業員が持っている丸いお盆のようなもののことをトレンチと呼んでいたが、あれは指を立てて持つのが正しい持ち方なのである。そうすることでバランスを保って持つことができる。逆に指を立てずに持ったら不安定この上ない。水の入ったペットボトルをトレンチに乗せ、一本を隅の方に乗せたり三本乗せたりして持ち方に慣れさせられた。この経験があるためにおれは漫画やアニメで指を立てずにトレンチを持たせているのを見ると嘆かわしく思い、指を立てて持たせていると妙な満足感を感じるようになった。「ごちうさ」は確か立てていたと思う。
 仕事内容はパブとは比べものにならないほどに忙しかった。客が席に着いている間の接客はもちろんキャストがしているわけだが、そのキャストがドリンクを注文することがある。前述した焼酎ウイスキーブランデーはキャストも飲み放題だったがそれ以外を注文すると料金が発生し、客の支払いとなる。ビールだと一杯千円だったがそのうちの半分500円はキャストにバックされた。もちろんキャストが勝手に注文していいわけがなく、客の承諾を得なければならないわけで、キャストの交渉の結果に対する対価というわけである。ちなみにビールとして出しているのも発泡酒であった。このバックも全額バックという店もあったからこの店のキャストへの待遇は決して良くはなかった。
 で、キャストが注文したドリンクをつくって出す仕事もやらされた。キッチン専属の従業員がいるところが多かったがこの店にはそんな者はいなかったので黒服がやった。ビールならぬ発泡酒はビールサーバー改め発泡酒サーバーからつげばいいだけだったが、カクテルの場合は自分でつくらなければいけないので厄介であった。これでおれはカクテルの種類をいくつか覚えたのであった。
 
 くせ者だったのは「アルコール抜き」の酒の注文である。キャストはドリンクをオーダーするとき切符サイズくらいの小さな紙にドリンク名を書いて黒服に渡したが、「緑茶ハイ○」のように末尾に○を書いたものはアルコール抜きという暗号であった。この例なら焼酎を入れずに緑茶だけで出すのである。酒を飲むのもキャストにとっては負担なのでこうしてズルをすることもあった。これはもちろん色でバレないものでなければいけない。にもかかわらずたまにカシスオレンジの後ろに○をつけて渡してくる馬鹿もいて大層難儀した。カシオレのアルコール抜きと言ったらただのオレンジジュースで、色が全く違うからだ。
 灰皿に三本煙草がたまったら交換することになっていた。まず新しい灰皿を交換対象の灰皿の上に乗せて蓋としてその二つをトレンチの上に置き、別の新しい灰皿をテーブルに置く。こうすることで灰を舞い上がらせないという寸法である。
 おしぼりはキャストが三角形に折ったやつを回収していいということになっていたのでそれも回収する。
 アイスペルーに入っている氷も半分くらい溶けてきたら交換した。この氷は「アイス」と呼ばねばならず、氷と言ったら怒られた。
 基本的にはこの店は自動延長であった。つまり時間が来ても従業員が教えることもなく自動で延長に入るということである。表向きは客とキャストの時間を邪魔しないためとか言っていたが、実際はその方が客が時間を忘れて延長をとれ、延長料金を払わせられてキャクタンを上げられるからである。キャクタンとは客単価のことで、特定の客が一人で支払った額のことを言う場合もあれば、その日の客の支払った額の平均値のことをいうこともあった。この店は高級感を売りにしていたので客数よりもキャクタンで勝負という方針であった。だが中には5分前コールをするよう要請してくる客もいる。特にビラで引っ張ってきた客に多かった。この席にはセット時間終了5分前にその旨を伝えにいかねばならないのだが、このときに延長交渉をしなければならなかった。
「失礼します! お時間5分前となりましたが延長の方はよろしかったでしょうか?」
 マネージャー勢はさすがにマネージャーにまで上り詰めただけあってこの交渉がうまく、よく延長をとっていた。おれはこれが下手で延長をとれずすごすご帰ってきてインカムで罵倒された。従業員はインカムをつけており、胸元につけた小型マイクで通話し、イヤホンでほかの従業員の声を聞いていた。パチンコ屋の従業員やお偉いさんのボディガードなどがつけているのを見たことがあるだろう。あれだ。
 この延長交渉にはあるテクがあった。二人とか三人とかで来た客は基本的に近接した席ではなく離れた席につかせた。そして延長交渉の際には「お連れ様はご延長されるとのことですがどうなされますか?」と嘘をつくのである。当然その連れの方にも同じ事を言う。これは割と延長を取れたが賭けでもあった。もし嘘がバレた場合は怒る奴もいた。当たり前だ。

 マネージャーという語が出てきたが、ここは完全階級制でカースト社会であった。役職が上の人間は絶対であり、キャリアや年齢は関係ない。下から順に研修、正社員、ボーイ長、主任、マネージャー、次長、店長、部長、代表という具合になっており、役職が上がるごとに昇級した。正社員になってもボーナスなどはないので給料を増やしたいなら役職を得るしかなかった。
「Dior」は1セット40分で、その中で一回10分のダウンタイムがあった。ダウンタイムになると消毒したおしぼりを客に渡してそれで手を拭いてもらった。そしてキャストがドレスをはだけて乳を放り出し、客の上に対面座位のようなかたちで乗っかる。純粋無垢なおれにはその様は最初なかなかの衝撃であり、勃起もした。このとき「ダウンチェック」というものをする。ざっと見て回って客に乗っていない(「ノーダウン」と言った)キャストがいたらインカムでリストに報告するのである。リストとは客の前には出ずバックヤードのようなところのデスクに座り、客の時間の管理をしたり電話対応をしたりしながらインカムで各従業員の報告を受けまた指示を出す司令塔であった。「Dior」では二人のマネージャーのどちらかがやっていた。リストのいる場所の隣がキャストの待機場所になっていたので頭のイカれたキャストの対応もしなければならないので楽ではないポジションであった。ノーダウンをしたキャストは時給30分ぶんカットという制裁が加えられた。

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