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闇へのご案内~すすきの黒服、客引き体験録9

 約三ヶ月ぶりの更新なので例によって同じことを繰り返すかも知れないのでご了承願いたい。

 不人気店は無料案内所や雑誌などで選んでもらえないので、集客はビラ隊に頼っている状態であった。会社のシステムが、有り体に言えば経営者が無能だと現場の人間が苦労するのはどの業界も同じである。その上知名度のある人気店ならビラでも引きやすいが、なにせ知名度のない不人気店である。いや、知名度はそこそこあった。「ここは駄目だ」という悪評とともに知れ渡っていたのである。なので地元客が相手ではビラで引くのはとても苦労した。それでもなんとか引っ張ってくるごま団子や八重樫は大したものであった。駄目な経営者は己の無能さを認めずに末端のせいにし、末端に理不尽な負荷(ノルマ)を課し、末端は通常以上に苦労し、また有能さを発揮してそれに応える(応えざるを得ない)のだが、アホ経営者はそれをいいことに給料を上げるわけでもなく更なる負荷を課す。いわゆる剰余価値の搾取の構図であるが、その典型がこの会社であり静岡であった。ムカつくので本名をさらしてやりたいがその本名を忘れてしまった。

「クオーレ」のキャバクラ部門が「第二営業部」でファッションヘルスが「第一営業部」だったのだが、第二営業部では月に一度ミーティングと称して全従業員が事務所に集まり話し合いのようなものをしていた。午前の四時や五時に仕事が終わった後にそんなものをやらされるのはたまったものではなかった。内容はと言えば実質静岡による一方的な従業員責めである。自分の無能さを棚に上げて主にマネージャー勢を責め立てた。ランクルマンはよく胃薬を飲んでいたが、その苦労の程が察せられた。おれより年下の二〇歳かそこらでもう、ストレスで胃を痛めていたのである。
 あるとき静岡がミーティングの場でこんなことを言った。
「お前っちらは確かに成長してる。だけどおれっちはお前っちらに(叱責を)言う。何故だかわかるか?」この「っち」というのが静岡弁なのらしい。
 ランクルマンが答えて、
「もっと成長させたいからですか…?」
「違うな。おれっちも成長してるからだ」
 こんなことを延々聞かされるのだ。静岡が喋りながら窓際に行き、ブラインドをずらすと眩しい朝日が差し込み静岡の顔と部屋を照らし出した。もうすっかり朝なのである。いつになったら帰れるのかとうんざりした。
 このミーティングなる儀式は主にマネージャー勢の胃に穴を開ける作業だったので矛先は主にそちらに向かうことになるのだが、おれのような下っ端にも来ることがあった。そのときおれは「へっ?」などと答えたらしく、そのことでその後しばらくごま団子から「『へっ?』じゃねーだろ(苦笑)」と言われることとなった。
 そんなマネージャー勢も店の売り上げが悪いということで「主任」に降格され、給料も下げられた。
 

 

事務所と言えば一度、店の売り上げを事務所まで届けさせられたことがあった。ランクルマンから現金の束を渡され、事務所の住所を教えられ、届けろと言うのである。これはもうさすがに緊張であった。多分百万円くらいだったと思うがそんな現生を持ってすすきのを歩くのである。これを持ってトンズラしようかなどとは思わなかった。例の、店の金を持って逃げ、結局捕まったアホを見ているのだ。事務所に着くと、そこではごく普通の事務所といった感じのオフィスで普通の事務員が仕事をしていて意外と普通だった。
 常に閑古鳥が鳴いているような店でも、さすがに一般的な給料日である二十五日のあとの週末などはそれなりに客が入った。そうなると氷…いやアイスが足りなくなってくることがあった。すると系列店から持ってくるように言われる。未使用のゴミ袋を持って系列店に行き、そのゴミ袋にアイスを入れてサンタのように担いで戻ってくるのである。Diorにいたころは何度かやらされたがマリオではそれはなかったのでマリオの方がアイスのストック容量が多かったのだろう。
 さてビラの方では同業店「ガルマ」の現役JKビラであるマホと我がビラ隊のリカが仲良くなり、それを通じておれを初めとしてマリオやDiorの従業員とも面識を持つようになったというのは既に述べたと思うが、この二人はウマが合うのかいつしかマブダチと呼べるほどになっていた。マホはガルマを辞め、確か学校も辞めてニート化していたと思う。なので店のしがらみもなくマリオサイドと交流出来るようになっていた。だとしても開店前のマリオに堂々と遊びに来るというのはなんとも大胆なものであったが、何故かランクルマンも石井もそれを咎めず、受け入れていた。なにせ現役JK(みたいなもの)であり、そこそこ可愛かったのだ。推して知るべしといったところか。
 ある日、開店前の準備時間にマホがマリオにいるときに、石井が店内放送の有線をお経に変えたことがあった。おれは大袈裟にビビり逃げ回るなどし、マホやその場にいた従業員らを楽しませた。もちろんおれはわざとビビった演技をしたのである
 またある日は石井とおれとマホ、キツネとで共謀し、ジェシーにドッキリを仕掛けた。マリオの入っているサイバーシティビルの裏手でおれと石井がガチの喧嘩をしている振りをして、マホがジェシーを呼んで驚かせようということであった。営業終了後のことであったがなんでそんな時間にマホがいたのかは覚えていない。確かリカもいたと思う。喧嘩といってもさすがに殴り合いではなく、ガチ切れして罵倒し合い、胸や肩を押す程度のものであった。おれと石井が迫真の演技で喧嘩しているところへジェシーが来たが、ジェシーは消極的に言葉をかけるだけでどうも本気で止めようとしてはいなかった。普通従業員同士でそんなことをしていたら大慌てで止めに入るだろう。なので演技をやめてドッキリであることを伝えると、
「タケちゃんの演技が下手すぎてわかってた」などと言うのである。アカデミー賞クラスのおれの演技が下手なわけがないので、本当は下手だったのは石井なのだろうが遠慮してそう言ったのであろう。
 ドッキリ失敗ということで企画は終わり、一同雑談に移行した。マホは道ばたにリカと並んで座っていたと思う。そこへ、マホの目の前になにかが空からぼとりと落ちてきた。それは無残にも食い散らかされたネズミの死体であった。恐らくカラスかなにかが落としていったのであろう。マホはけたたましい悲鳴を上げながら逃げ惑い、さながら地獄絵図といった感じであった。ようやくリカが落ち着かせたがマホは涙を流していた。いきなりネズミのグロ死体が目の前に落ちてきたら誰だって平常心ではいられないだろう。ほんの少しの差でマホの頭の上に落ちなかっただけ不幸中の幸いである。
 このようにマホは従業員でもないのに従業員のようにマリオ従業員と交流していた。
 そうしているうちにマホがランクルマンを好きになってしまい、付き合いだしたから青天の霹靂である。付き合いだしたからガルマを辞めたのかも知れない。その辺の前後関係は覚えていない。
 ある日マホがランクルマンに弁当をつくりたいということなのでリカの家で教えてもらうということになり、何故かおれの車で両名とキツネを伴ってリカのアパートに行くことになった。リカは家出少女で家なき子だったので彼氏の部屋に住んでいるので当然その彼氏もいた。その彼氏というのは派遣社員なので決して金は持っていなかった。どういう経緯でこの家出少女を拾ったのかは知らないが、当時十六、七の美少女と同棲出来るというだけで勝ち組ではないか。
 ギャルであるマホは料理は不得手で、リカより一から指導を受けていた。卵焼きをつくろうということになり、リカの指導に従い、ぎこちなくも真剣な眼差しでランクルマンのために頑張る姿は微笑ましいものであった。それにしても突如彼女が友人の女の子だけならいざ知らず、おれのようなイケメンも連れてきた同棲相手の心中はいかなるものであったのであろう。