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カップ焼きそばの作り方・夢枕獏「陰陽師」風にやってみた

 ほろほろと、酒を飲んでいる。
 安倍晴明の屋敷の簀子の上である。
 どこからか梅の香りが風に溶け、ここまで漂ってきている。
「なあ、晴明よ」
 源博雅が庭を眺めながら言った。

 「不思議なものだなあ」
「なにが不思議なのだ」
 晴明は柱のひとつに背を預け、片膝を立ててその上に杯を持った腕を乗せている。
「そのカップ焼きそばだよ」
 と博雅が視線を移した先、簀子の上にカップ焼きそばが二つ、並べてある。
 すでに蜜虫によってお湯が注がれており、ふたの隙間から湯気が出ているのが見えた。
「カップ焼きそばがどうした」
「お湯を注ぐだけで出来てしまうのだからなあ。実に面妖ではないか」
「──」
「これをつくった人はあやかしの類いなのではないかと思ってしまうよ」
「お湯を注げば焼きそばができる。これもまた──」
「晴明、待て」
「どうした」
「お前また呪の話をしようと言うのではないだろうな」
「よくわかったな」
「お前が呪の話をすると俺はわけがわからなくなる」
「わけがわからなくなる、ということもまた呪ぞ」
「やめてくれ」
 博雅が泣きそうな顔になっているのを見て晴明はあるかなしかの微笑を浮かべた。
「そろそろ時間だ」
 晴明のそばには胡の国から渡ってきた砂時計が置いてあり、さらさらと落ちる砂で時をあらわしている。その砂がもうほとんど全て下の方へ落ちてしまっていた。
「蜜虫」と晴明が言うと蜜虫は表情も変えずにカップ焼きそばを持って立ち上がり、庭の方へ湯を捨てた。
 同じように晴明もカップを持って立ち上がり、湯を庭へ捨てた。
 それぞれがソースの袋をやぶって麺に回しかける。
 箸を使ってそれをかきまぜると、良いにおいが博雅の方まで漂ってきて博雅は居ても立ってもいられなくなる心地がした。
 ところがである。
 晴明が自分の持っていたカップ焼きそばを頬張りだしたのはいいが、蜜虫が持っているそれを蜜虫が食べ始めたのである。
 カップ焼きそばはその二つしかない。
「おい。俺の分はどうした」
 たまらず博雅が言った。
「これは俺の分だ」
 と晴明は自分のカップ焼きそばを見ながら言った。
「あれは蜜虫の分だ」
 と蜜虫のカップ焼きそばを視線で示す。
「じゃあ俺の分は……」
 と博雅が言っても晴明は微笑を浮かべるばかりである。
「そんな……ひどいではないか晴明よ……」
 博雅はうつむき、ひどく落胆した声を出した。
 そんな様を見た晴明が、
「博雅、たれもお前の分はないとは言っていないだろう」
「しかし、カップ焼きそばはその二つしか──」
「近う寄れ」
 と晴明が言うので博雅は簀子に座したまま、手を使って晴明のすぐ横にまで移動した。
 お互いの肩が触れ合うくらいにまで近付いた。
「口を開けろ」
 晴明に言われるままに博雅が口を開ける。
 その口に、晴明が箸でつまんだ焼きそばを入れてやった。
 博雅がぱくりと食いつき、ずずず、と吸い込む。
「うまいか?」
 と晴明が訊く。
「うまい」
「そうか」
 晴明は微笑を浮かべ、自分もその箸で焼きそばを食べるのであった。
「おい晴明、俺は犬や猫ではないぞ」
「当たり前ではないか」
「お前犬や猫に餌をやるみたいに俺に焼きそばをやって遊んでいるのではないか」
「そんなわけはない」
「そうなのか」
「犬や猫ではお前の代わりは務まらんよ」
「ばか」

 

 ここで力尽きました。